外来案内:リハビリテーション

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コラム | 体幹トレーニングについて②

体幹を安定させるIAP(腹腔内圧)

IAP(Intra-abdominal pressure)とは、腹腔内圧のことを指し、これはお腹の中の空気圧を指します。

お腹の中に風船が入っているイメージで、風船内に含まれる空気が多ければ腹腔内圧は高くなり、風船内の空気が少なければ腹腔内圧は低くなります。風船内に空気がパンパンに入っていると、風船は硬くなります。逆に風船内に空気が少ないと風船はしぼんで柔らかくなります。つまり、お腹という風船内に空気をためることで、硬く安定した体幹が獲得できるというわけです。ただ、人の身体は風船のようにゴムでできているわけではありませんので腹筋や背筋によってお腹の中に空気を押し込める必要があり、当然押し込める力が強いほど、腹腔内圧も高くなります。

注射器などで使われるシリンジポンプを例に説明すると、図の右側シリンジが左側よりIAPが高い状態になります。

IAP

上から下に押す部分が横隔膜、前面と側面が腹筋群(腹直筋・腹斜筋・腹横筋)、後面が背筋群(多裂筋・胸腰筋膜・脊柱起立筋)、下側が骨盤底筋群となっています。

横隔膜の働きによって高くなった腹腔内圧を壁となる筋肉が抑え込むことで、腹腔内圧を高く保つことができるのです。

IAPの確認方法

IAPと背骨の関係

IAPは背骨と密接に関わっています。
IAPが高まることで、背骨のクッションである椎間板にかかる負担を30-50%減らすことができると言われています。また、IAPは腰の生理的な弯曲(≒適度な反り)を作り、保つのにも大切です。

このように、IAPを高めることで体幹を安定させるだけでなく、背骨にかかる負担を少なくし、良い姿勢を維持することができるようになります。
逆に、IAPが低い状態では椎間板への負担が増大し、椎間板ヘルニアを引き起こし易くなる可能性があります。また、猫背や反り腰といった代表的な悪い姿勢に陥ってしまう原因にもなりそうです。

横隔膜と体幹の関係

横隔膜は肋骨から背骨にかけてドーム状に存在し、主に呼吸時に働く筋肉です。

息を吸う際にお腹に向かって下がっていき、息を吐く時には胸に向かって上がっていきます。これらの動きによって、IAPをコントロールしています。横隔膜を働かせる(お腹側に下げる)ことでIAPを高めて体幹を安定させることができ、同時に重心位置が下がるためバランス機能が向上します。

反対に、横隔膜を下げることができないとIAPが低くなり体幹が安定しません。また、重心位置が上に上がるためバランス能力が低下します。この様に横隔膜は呼吸に関わるだけでなく、体幹の安定性と密接に関わっています。

Image courtesy of Visible Body

ドローインとIAP

では「体幹トレーニングについて①」で紹介したドローインをしている時のIAPはどうなるでしょう。
ドローインでは腹横筋が働くため、側面の壁によりIAPをわずかに高めることができます。

しかし、お腹を凹ませた状態では横隔膜が下がるスペースがなくなってしまうため、IAPを強く高めることができなくなり、また重心が上がりバランス能力が落ちる、呼吸が浅くなるなどのデメリットが生まれます。「体幹トレーニングについて①」でお話ししたように、普段からお腹を凹ませているのは良いこととは言えませんね。

ドローインの本来の目的は腹横筋を働かせることですから、IAPを高めるエクササイズではないことに注意しましょう。

ブレーシングとIAP

では、ブレーシングではどうでしょうか。

ブレーシングでは横隔膜の上下動によってIAPを調節しています。ドローインとは異なり、横隔膜による適切な呼吸ができるため日々の生活で意識して行うことに適しています。

一見簡単そうに思えるブレーシングですが、慣れるまでは案外難しいため、繰り返し練習しましょう。「体幹トレーニングについて①
誤ったやり方を続けることは《癖》を作ることになりかねません。

ドローインとブレーシングのIAPの比較

ドローインとブレーシングではどれだけIAPの状態に差があるのでしょうか。比較した研究を載せておきます。※1

グラフ左側がブレーシング時のIAP、右側がドローイン時のIAPです。IAPを高める効果はブレーシングの方が高いことは間違いなさそうです。

ただ、その前段階として腹横筋の働きが弱っている場合などにはドローインで腹横筋を鍛えた後に、ブレーシングを行い体幹の安定性を高めることは有効かもしれません。

体幹

IAPに影響を与える因子

IAPを高める要素

  • 横隔膜がしっかり下りることができる
  • 横隔膜と骨盤底筋群の位置関係が適切である
  • 腹壁と肺筋群がしっかり伸びるかつ圧を逃がさないように止められる
  • 胸郭(肋骨)がしっかり動く

IAPを高めることを邪魔する要素

  • 横隔膜が下がらない状態
  • 胸郭が動かない
  • 腹壁が伸びない、または腹壁が伸びすぎて圧を止められない
  • 横隔膜と骨盤底筋群の位置関係がズレてる
  • 胸筋群・背筋群・頸部後面の筋が硬い

※1:K Tayashiki et al, Intra-abdominal Pressure and Trunk Muscular Activities during Abdominal Bracing and Hollowing Int J Sports Med.2016 Feb;37(2):134-43

あいちせぼね病院
リハビリテーション部 理学療法士
山本剛史

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