ゴルフと背中の痛み
目次
ゴルフで背中に痛みが出る場合に考えられる疾患とは?
当院には「ゴルフのスイングで背中痛めてからなかなか治らなくて心配」「ゴルフの後から急に背中に激痛が出る」と相談にみえる方もいらっしゃいます。このページでは、ゴルフで背中が痛くなる原因や治療法について、医師の立場から紹介します。

肉離れ(筋肉の部分断裂)
症状
医学的には『筋挫傷』と呼ばれます。ふくらはぎや太ももなどの下半身の筋肉に起こることが多いですが、ゴルフのスイングなど背中を捻るスポーツでは背中の筋肉でも肉離れが起こります。
肉離れが起こると炎症や内出血を起こし、患部が腫れ、激しい痛みを感じます。
原因
肉離れは筋肉が伸ばされた状態で収縮しようとすることで生じ、急に動きだす、突然止まる、ジャンプして着地するなどの動作で起こることが多いです。
スポーツをする際に筋肉が疲労した状態や加齢、ウォーミングアップ不足などによって起こりやすくなります。
診断
痛みが発生した状況と、症状から診断されることが多いです。触診では断裂部にへこみを感じることもあります。
こむら返りや筋膜炎など肉離れと似た病気があるため、鑑別が難しい場合にはMRIなどの画像検査が行われることもあります。
MRIにて次の分類に分けられます。
「Ⅰ型 出血のみ」「Ⅱ型 腱膜損傷型」「Ⅲ型 筋腱付着部損傷型(手術が必要)」
治療
肉離れが起こったら、直ちにスポーツを中止して応急処置を行います。応急処置にはRICE処置と呼ばれる方法があり、損傷部位の障害を最小限にして早期のスポーツ復帰につなげることができます。
医療機関では、重症度に応じて安静、消炎鎮痛薬(外用・内服)などによる治療が検討されます。
違和感が残った状態でジャンプやダッシュ、捻るなどの動作を行うことは避けるようにしましょう。
予防
肉離れは筋肉の柔軟性が低下した状態で無理な運動をすると起こりやすくなります。運動前後にマッサージやストレッチを十分に行い、肉離れの発症を予防するようにしましょう。
筋・筋膜性疼痛
症状
筋・筋膜性疼痛の多くは、うずくような鈍い痛みやこりが症状として起こります。
原因
痛みの発生源は筋肉・筋膜やその周囲の軟部組織と考えられています。
運動不足や、長時間同一姿勢、ストレッチなど準備運動なしでの激しい運動(ゴルフのスイングなど)は筋肉への負担が大きく、筋の緊張をきたし、筋の緊張が持続する結果、筋血流が障害され痛みが発生すると推測されています。
診断
筋・筋膜性疼痛は、1~2ヶ所の限られた筋肉に症状が認められ、触診などで確かめることができます。
筋・筋膜性疼痛を起こしている軟部組織の異常は血液検査やX線検査などでは検出ができません。
ただし画像検査を用いて、類似の病気との判別を行う場合があります。
治療
急性の筋・筋膜性疼痛は、少し動いただけで強い痛みを伴うため、発症直後はしばらく安静が必要な場合もあります。
しかし、安静期間が長くなりすぎると痛みが長引く原因となるほか、筋力や柔軟性の低下にも繋がるため、痛みが落ち着いてきたら速やかに軽いストレッチなどから少しずつ身体を動かし始めましょう
予防
運動をする前に必ずストレッチなど準備運動を行いましょう。運動後もストレッチなど筋肉のケアが必要です。
痛みを引き起こす原因となる動作や姿勢などを改善するためのトレーニングも行い、バランス良く身体を使えるように筋肉の強化を行っていくことも大切です。
椎間板ヘルニア
症状
椎間板ヘルニアでは頚椎・腰椎など、どの部位にヘルニアが出たかでも症状が変わります。
頚椎では、首や肩、背中が痛かったり、腕や指先にしびれを感じたり、場合によっては筋力の低下が生じることがあります。手の指先にしびれが生じると、細かい作業(お箸を使う・洋服のボタンをかける等)がしにくくなります。足のもつれ等の歩行障害が出ることもあります。
腰椎では、お尻や足の側面、裏側、前面、足の指先のしびれなどヘルニアの出た場所によって症状も足の様々な場所に生じます。腰部だけに痛みが出ることもあり、咳やくしゃみをすると激痛がはしります。

原因
加齢に伴う椎間板の老化の過程で生じますが、急に重い物を持ち上げる、中腰といった日常の動作、ゴルフや野球など腰を捻るスポーツなどが腰への負担へきっかけとなることもあります。
また、喫煙、遺伝(同一家系内に発症しやすい)、精神・社会的側面(不安、抑うつ、結婚生活)や、仕事に対する姿勢(仕事上のストレス、仕事への集中度や満足度、失職)などが深く関与していることも指摘されています。
診断
椎間板ヘルニアの検査には、磁力を利用して神経や筋肉など軟らかい組織を鮮明に写し出すMRIが必須と言えます。他にも状態に応じてCT検査や、造影剤を注射する検査なども行われることがあります。
以上の検査に、筋力検査や感覚検査などの神経的な所見を加味して、椎間板ヘルニアが診断されます。
治療
椎間板ヘルニアの治療は、観血的療法と保存療法とに分けられます。
観血的療法とは手術治療のことを指し、保存療法は、それ以外の投薬治療や注射、コルセットなどの装具療法、リハビリなどを指します。
保存療法は、ヘルニアによる神経の圧迫を直接取り除くわけではないので、どちらかと言えば痛みなどの症状に対する対処療法となります。激烈な症状や麻痺など重度のヘルニアである場合を除き、まずは保存療法を選択するのが一般的です。
当院における椎間板ヘルニアの手術についてはこちら
予防
中腰での作業や、重たい物を持つなど、腰に負担がかかる事を避けるのが重要です。お仕事などの都合でどうしても避けられない場合、コルセットなどで保護することも効果的です。
そして、負担を減らすだけでなく、負担に耐え得る身体を作る事も大切です。柔軟性を上げたり、筋肉を鍛えたりすることがそれにあたります。お仕事やスポーツへの復帰など一人ひとり状態や、置かれている環境は違いますので、自分に合ったヘルニア予防策を講じることが重要と言えます。
椎間関節症(椎間関節性疼痛)
症状
腰痛は左右どちらかに起こることが多く、時にお尻や太ももの裏にまで痛みが波及することもあります。
ゴルフスイングなどの回旋動作や、腰を反らす(伸展動作)で症状が生じることが多いです。

原因
椎間関節性腰痛の原因は、椎間関節への繰り返される負担や加齢などが挙げられます。
椎間関節は、腰を反ったり捻ったりすることで負担がかかります。多少の負担なら問題になることはありませんが、過度に大きく動かしたり、何度も繰り返し動かしたりすることで徐々に腰痛を発症します。
診断
症状に関する問診や身体所見、画像検査で総合的に診断することが一般的です。
椎間関節は腰の真ん中から左右に2cmほど外側に位置し、ここに圧痛が生じていると椎間関節による腰痛を疑います。
患者さんに背中を反ってもらった状態で体をひねる動きを加えたときに痛みが生じた場合も椎間関節性腰痛が疑われます。
椎間関節にキシロカインなどの局所麻酔剤を注入し、痛みが一時的に改善することで確定させる方法もあります。
正確に診断するには専門の医療機関での診断が望まれます。
治療
発症してすぐは安静にすることで症状が緩和することが多く、装具療法(コルセット)や痛み止めの内服などを行います。ある程度症状が落ち着いたら、リハビリでストレッチや筋力トレーニングなどを開始します。症状が強い場合は椎間関節に痛み止めを注射する椎間関節ブロック(ファセットブロック)という治療を行うこともあります。
予防
正しい姿勢を維持すること、そして定期的にストレッチや適度な運動を心がけることが効果的です。また、長時間同じ姿勢でいることを避け、適度に休憩を取ることも重要です。
肋骨の疲労骨折
症状
明らかな外傷がなく、身体をひねると胸に痛みを感じたり、骨折部位を押さえると痛みを生じます。運動後の翌朝に痛みを感じる場合もあります。
激しい咳やくしゃみが続くと、全身に筋肉痛がでるほどの負担がかかり、肋骨にヒビが入ることもあります。

原因
肋骨は、両側に12本ずつある骨です。第1肋骨疲労骨折は、腕を上げる動作を起点として発症し、ウエイトリフティング、チアリーディングなどのスポーツに多くみられます。
第2~9肋骨疲労骨折は、ゴルフ、野球、ソフトボールなどのからだの捻りを伴う動作を繰り返す競技に多くみられます。
ゴルフによるものは利き手と反対側の第5-6肋骨に多く、野球では利き手側の第7-8肋骨に多いと言われています。
診断
問診から練習量や練習環境の変化、フォーム、ポジションなど確認します。初期ではレントゲンでは所見が認められないことが多いため、MRI検査が早期診断には有用です。
発症後2週間以上経っているものではレントゲンでも変化が認められることがあります。
治療
疲労骨折の基本的な治療法は、練習を含む運動を中止して安静にし、患部に負担をかけないようにする局所安静です。
痛みがある状態で、無理に練習を続けてしまい疲労骨折の発見が遅れると、骨折が治らない「難治性骨折」や「偽関節」と呼ばれる状態になってしまうことがあります。
復帰に関しては、定期的なMRIやX線検査の結果を見て、試合や生活のニーズに合わせながら段階的に復帰時期を検討します。
予防
適度な休憩とリカバリーの時間を確保し、マッサージなども取り入れながら疲労を蓄積させないようにしましょう。
適切なトレーニング量になるように練習内容と時間の調整を行い、運動前後にストレッチの時間をつくりましょう。
また、骨の健康に必要な栄養素(カルシウムやビタミンD、たんぱく質など)を意識的に摂取するようにしましょう。
ゴルフと背中の痛みQ&A
ゴルフをしていたら背中が痛くなりました。何科に行ったらよいですか?
ゴルフの動作で痛みが出た場合、筋肉や関節、椎間板の怪我などが考えられます。これらの場合は『整形外科』が推奨されます。
整形外科では、背骨、上・下肢などの骨・関節・筋肉・神経の病気、外傷などを専門としており、痛みが出た状況や画像検査などを用いて原因を調べます。
背中の痛みに加え、息切れや息苦しさ、胸の痛みも伴う場合は心臓や肺、大きな血管に関係する病気の可能性も考えられます。この場合は内科への受診をおすすめします。
スイングの途中で「ピキッ」と痛みが走ったのですが、大丈夫でしょうか?
一時的な短時間の痛みである場合、筋肉が反射的に収縮したことによるものや筋肉の緊張からくる痛みの可能性があります。その際は無理に動かさず、すぐに動きを止めて安静にしましょう。
その後も痛みが長く続く場合は、すぐに病院を受診することをおすすめします。
マッサージやストレッチだけで治りますか?
ゴルフなど運動をした際に緊張やストレスなど筋肉の血流が悪く痛みが出た場合、マッサージやストレッチは効果的です。しかし、他の原因がある場合はかえって痛みを増悪してしまうこともあります。
痛みがある場合は医療機関にて適切な診断を受け、医師の指示に従ってストレッチ等おこないましょう。
整形外科に行くほどではない気がしますが、どの程度なら受診すべきですか?
痛みが激しい場合や長時間続いている場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。特に急激な痛みや夜間の痛みは要注意です。
症状がある場所に腫れや熱がある、日常生活に支障がある、同様の症状が過去にもあった等、なにか症状がある場合は、まず医療機関にて検査と医師の診察を受けることをおすすめします。
現代ではSNSを通じてたくさんの情報を得ることができます。しかし実際に検査をし診察を受けることで初めて痛みの原因がわかります。適切な処置をするため、違和感があればまずは医療機関をお訪ねください。
ゴルフを再開するタイミングはどう判断すればいいですか?
基本的に、痛みなど症状がなくなれば少しずつ始めていただけます。しかし、ケガの種類によって安静期間は変わってきます。
自己判断だけでなく、医師や専門職の方の指示に従って再開しましょう。
また、ゴルフ再開までにも、再発を防ぐためのトレーニングやストレッチなど行える場合もあります。ぜひ医療機関へご相談ください。
まとめ
ゴルフは他のスポーツに比べ激しい動きがなく老若男女が楽しめるスポーツですが、スイング動作は思っている以上に体に負担がかかる動作です。
「ただの筋肉痛かな」と思っていた背中の痛みが、実は放置すると悪化するような疾患であることも珍しくありません。
痛みが長引く、繰り返す、動作に支障が出てきた・・・そんなときは、無理をせず一度ご相談ください。
当院では、スポーツによる筋・骨格系のトラブルについても、適切な診断と治療を行っています。必要に応じて、リハビリも含めて、再発防止までサポートいたします。
気になる症状がありましたら、お気軽にご来院ください。
著者プロフィール

伊藤全哉 医師・医学博士
あいちせぼね病院 院長
・日本整形外科学会 専門医、脊椎内視鏡下手術・技術認定医、脊椎脊髄病医
・日本脊椎脊髄病学会 脊椎脊髄外科指導医
・日本脊椎脊髄病学会・日本脊髄外科学会 脊椎脊髄外科専門医
・日体協公認スポーツドクター
・AO Spine delegates
・PASMISS board member
・日本脊髄機能診断学会 代議員
名古屋大学医学部を平成10年3月に卒業後、同年4月より名古屋第一赤十字病院整形外科に勤務。平成15年4月からは国立長寿医療研究センター整形外科、平成16年10月からは愛知厚生連 渥美病院整形外科にて勤務。平成17年4月より名古屋大学医学部附属病院整形外科に所属。
平成21年7月にはアメリカ・ジョージア州アトランタのEmory Spine Centerにて研修を行い、平成22年10月より豊橋市民病院整形外科副部長を務める。平成23年5月に名古屋大学医学部附属病院整形外科助教に就任。
平成28年4月より全医会 伊藤整形・内科あいち腰痛オペクリニック副院長、平成29年4月にあいちせぼね病院院長に就任。令和5年2月には中国山東大学医学部整形外科客員教授に就任。



